映画監督の伊丹万作は映画を作るうえで大切なことを3つ上げています。
?お客を楽しませることができるか
「寅さん」シリーズやインディジョーンズシリーズなんかですね。
?もうけることができるか
これは、ほとんどの映画製作者が目指していること。
?どうしても訴えたいか
チャップリンの「独裁者」やドキュメンタリー映画なんかですね。
もちろん、上記3つにあてはまらない映画もたくさんあるだろう。
では、ロボットの場合はどうか。あえて3つあげると、
?人々を楽しませ、豊かな時間を共有することができるか
?人々のニーズに合い、たくさん売ることができるか
?人々の役に立ち、よろこんでもらうことができるか
「タンポポ」や「ミンボーの女」を作った万作の息子十三は、父親の教えを守って(かどうかはわかりませんが)、自分の訴えたいテーマで、人を楽しませ、ヒットする映画を作った。
ロボットはまだまだ開発途上であるし、作られるロボットも多種多様。
規定することにあまり意味はないかもしれないが、
作り手の意思がロボットに反映され、役立つことで人々が喜こび、結果としてたくさん売れるロボット
それが理想だろう。
もちろん言うは易し。でも伊丹十三にできて、ロボット開発者にできない理由ないと思うが ・・・。
家庭用のロボットを分類すれば、 <( )内は代表的なロボット>
?エンターテインメントロボット(AIBO)
?ホビーロボット(KHR-2)
?見守り・監視ロボット(ロボリア)
?掃除ロボット(ルンバ・ディスカバリー)
?介護・福祉ロボット
?生活支援ロボット
などがあり、現在?から?の分野には、ロボットベンチャーを含め、いくつかの企業が参入している。
ただし、多くの人が求めているロボットは、?、?に代表される「人に役立つロボット」。
経済産業省の「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」も将来の市場や社会的ニーズを満たす「要素技術の開発」を目的にしており、ロボット技術がロボット以外の製品分野(自動車や情報家電など)にも広く波及することを期待いる。
これは、ロボット開発をロボット単体だけにとどめるのではなく、体力のある企業(自動車、エレクトロニクス産業)を巻き込んで、ロボット技術を既存分野に応用させることで基幹産業の国際競争力を強化すると共に、ロボット市場を早期に立ち上げようとするもの。
今後、車や家を含めあらゆる空間がロボット化することを踏まえれば、ロボット単体の開発にこだわるのではなく、ロボット適応分野の拡大を目指す経済産業省の方向性は、正しいと思う。
ただし、経済産業省は、次のように言うことも忘れていない。
「・・・市場の失敗に対応すべく、国として関与すべきミッション」 。
経済産業省は、ロボット産業を日本の基幹産業のひとつに成長させることを目的に「21世紀ロボットチャレンジプログラム」を2004年からスタートさせている。
?次世代ロボット実用化プロジェクト('04-05 41.3億円)
「愛・地球博」で披露された65種類のプロトタイプロボットと生活及び福祉分野の9種類のロボットの実証試験。
?人間支援型ロボット実用化プロジェクト('05-07 9億円)
福祉・介護ロボットのモデル開発と実証試験。
?次世代ロボット共通基盤開発プロジェクト('05-07 4億円)
ロボットのパーツの共通基盤化技術の開発。
?サービスロボット市場創出支援事業('06-07 4.2億円)
ユーザーとメーカーが一体で事業に取り組み、成功事例として実用化を目指すもの。
?戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト('06-10 11億円/初年度)
?次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト('07 19億円)
2025年までのロボットの技術戦略マップに基づく、チャレンジングなミッション。
特に?は、
政府の総合科学技術会議が決めた今後5年間に集中投資すべき62のテーマのひとつ「ロボット中核技術」を受けて実施されるもので、
将来の市場ニーズと社会ニーズが高いと考えられる
「製造分野」「サービス分野」「特殊環境下での作業」の3分野に特定した、「ステージゲート制度」を採用。
イノベーションを加速させることを目的にステージを2段階に分け、3年後に1分野1研究に重点的に予算を振り向けるというもの。
アメリカの「グランドチャレンジ」に相当する国家プロジェクトである。
達成すべき技術仕様の落とし込みを明確にしていることやステージゲート制という競争原理を取り入れていることも他のプロジェクトとは異なる点であり、
また、
達成したロボットの要素技術をロボット以外の製品分野(自動車や情報家電など)にも広く波及させようとしているところも注目されところ。
MITの人口知能研究所所長で、iRobot社の創立者であるロドニー・ブルックスは自著「ブルックスの知能ロボット論」で、今後数年で家庭に入ってくるロボットとして、
「スイッチを押せば、あとは忘れてしまってよいロボット」
を挙げている。
具体的には、
自動掃除ロボットの変種のような小指ほどの自動埃取りロボットや小型アームで食器を出し入れするキッチン掃除ロボット、また絶えず顔を完全な角度から映してくれる鏡ロボット、などだ。
そしてもうひとつは、遠隔存在ロボット。
それは現在市販されているロボリア(テムザック社)のように、遠隔操作による見守りや防犯ができることにプラスして、
取っ手付きドア(玄関や冷蔵庫など)の開け閉めができるような、
「物理的な作業ができるロボット」のこと。
外からロボットを操作し、自分に代わってロボットに作業させることは、現在の技術レベルで十分可能という。
「留守の時に役立ち、居るときには癒され、又は話し相手になるロボット」
を、今後の有力な家庭用ロボットとする日本人研究者も多い。
夏目漱石の小説「三四郎」に、東京に向かう汽車の中で広田先生が三四郎に言うセリフがある。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より・・・・・日本より頭の中のほうが広いでしょう」。
脳科学は、人間のロボット化=ブレイン・マシーン・インターフェースや認知神経科学に基づく新しい経済学=ニューロ・エコノミクスを生み出し、「脳を活かす」ことで「売れる仕組み」を作る大きな原動力になりつつある。
実際、脳を鍛えるゲームは100種類を越え、また、高齢者や団塊の世代を対象にした「脳を活性化させる」ビジネスも盛んである。
2006年春に脳科学者やロボット研究者など、脳に関わる第一人者が発起人となって設立された「脳を活かす研究会」。
この会の発足理由のひとつに、最近の「脳文化人」出現への危惧がある。
「脳文化人」とは、確証のない私見をあたかも脳科学の裏づけがあるかのように公言する一部の科学者のこと。
非科学的で、客観性のない脳情報の氾濫は、一般の人が脳に関して誤った考えを抱く恐れがあり、これまで地道に脳の研究をしてきた科学者にとっては、迷惑千万ということだろう。
また脳科学が長年、あまり儲かる学問ではなかったため、国の研究予算が削られており、一部の「脳文化人」だけがいい思いをしているというやっかみもあるのかもしれない。
広田先生が言うように、「頭の中は広い」わけで、今後もいろいろな立場の人たちが脳の研究を通してビジネスに携わり、それがロボットの発展にもつながっていくことになるだろう。
そしてもうすでに、怪しげな「ロボット文化人」が、出現している気がする。