(つづき)
『介護現場が求めるリハビリ機器は(治ることを主眼にする)医療機関とは違い、「日常生活を支える」という長期的な観点から、費用的にも機能的にもオペーレーションとしても使いやすい機器が求められる。
そしてリハビリ機器を利用することで、利用者の閉じこもりがなくなったり、コミュニケーションがよくなるといった、科学的効果だけでないプラスαも求められているのだと思う。
事業者によっては介護予防というだけで機器を購入する場合もあるが、多くの事業者はぎりぎりの経営状況のなかで、積極的な設備投資には出にくい面もあるため、機器メーカーは、導入しやすいアイデアを提供し、かつ、様々な機会を通じて蜜にフォローアップをする必要があるだろう』(サービスD社)
『障害者を支援する技術開発については行政の継続支援が不可欠だ。過去、ロボット技術が障害者の信頼を裏切ってきた歴史がある。
技術開発にはモノだけではなく、当事者の考え方がまずは基本。障害を持つ人がこうありたいと思う気持ち、こんな機器があればもしかしたらもっと自立できるかもしれないと思う当事者の声がまずスタートであり、それについて技術側として具体的に何ができるか考えることが必要だと思う』
(病院E)
『ロボットによる介護ではなく、基本的には人が介護すべきであり、それよりも介護者が楽になるロボット技術を開発すべきだろう。
リハビリは生活をどう再建するかが大切。単なる機能訓練ではない。
歩くという機能も単に歩行の訓練ではなく、実際の生活で使わないと意味がない。
トイレまで行って帰ってこられるとか、ベッドから離れて食堂で食事をするとか、そういった生活のシーンと結びつけていかないといけない。
生活に結びついていくためには、機械やロボットがどうやったら役に立っていくのかという発想が必要である』(病院F)
(つづく)
参考: 高齢者・障害者の次世代支援機器
急速な高齢化に伴い、高齢者や障害者への自立支援、介護の問題は誰にとっても、人ごとではない身近な問題になってきています。
僕の住むマンションも最初に買った世代が70歳を越え、高齢者に合わせて部屋をリフォームする人が増えています。
3月に発刊した「高齢者と障害者の次世代自立支援機器」では、ロボットメーカー、病院・施設、機器レンタル企業、行政などに取材をした。
2006年4月の改正介護保険法施行後の関係者による試行錯誤、人手不足を補う機械導入に対する現場とメーカーとの意識の違いなど、取材をする中でさまざまな問題点が見えてきた。
取材を通して印象に残った言葉をいくつか紹介する。
まずは介護現場への機械導入(ロボット化)について。
『完全な機械化はないと考えている。まだまだ福祉機器は使いにくい。
上肢に障害があっても家族や友人と一緒に食事を楽しんでもらえるよう、介護をする人も介護される人も簡単な操作で機器を使うことができることが重要である』 (メーカーA社)
『福祉介護の現場でロボット化はなかなか進まないのが実態である。
介護力の軽減ということではロボット化の必要性はあると思うが、購入単価が高すぎる。
介護施設も省力化機器がほしいのは山々だが、社会福祉施設の財源がなくなってきている状況では予算をとって購入することは厳しい。
どうすれば労働力と財源を確保できるのか。ロボット導入の是非もそこにかかっていると思う。
500万、1000万というような高額の商品をいくら作ってみても意味がない。
誰もが安全に使え、なにより手の届く金額のロボットを作ってほしい』 (福祉機器レンタル販売B社)
『機械を導入することによって国の介護費用を抑えることができる。
介護人件費30分をカットできれば、年間で100万円近く減る。つまり一人当たり90万円の国の負担が減るということ。
国にとっても機械化の問題は避けられないはずである。
機械化すると介護者は機械をつけっぱなしにして、かえって要介護者のためにならないのではないかというのは、あくまで機械を使用する人の問題であり、本来の使い方を理解して、一定時間はポータブルトイレを使うなどすることで、自立の方向性を探るべきである』 (メーカーC社)
(つづく)
今年3月、世界各国のイノベーション政策とその取り組みを議論する国際フォーラムが開催され、日米欧の政策担当者や研究者がそれぞれの立場から意見を述べ合った。
「イノベーション」は広い概念であり、幅広い政策が必要(最後のセッションでのまとめの言葉)だが、
2日間のセッションに参加して感じたことは、
どこの国・地域も持続的なイノベーションの重要性を強く意識していたこと。
どこの国・地域も基礎研究を新しい起業に結びつけることに苦心していること。
どこの国・地域も隣の芝生は良く見えるということ。
どこの国・地域も公的資金(税金)が国内企業に使われているのに、企業はそれをグローバルに展開してしまうこと。
どこの国・地域も特許数上位の企業がイコール、イノベイティブな企業とは限らないこと ・・・
日本の代表が、国内だけを見るのではなく、もっとオープンにすべきである、といえば、
米国代表は、9.11以降、外国のビザの取得が難しくなり、優秀な人まで締め出してきた。優秀な人たちにとって米国が魅力を失わないよう、もっと努力しなければならない、と返し、
また、欧州代表は、ヨーロッパの国同士はもっともっと人の移動をしなければならない。なぜなら、規模の経済が必要だから、と答えるなど、
日米欧3極がイノベーションを巡って相手に抱く印象が、かなり異なっていることが「わかった」2日間でもあった。
そしてある国の講演者の言葉。
「何のためのイノベーションなのか。
それは、すべての人が幸せになるためのイノベーションでなければならない。
すべての人がモノを買えるわけではない。
ゆえにイノベイティブな考えをもつことが重要であり、
イノベーションの目標は、国・地域だけの発展にあるのではなく、グローバルな問題として捉えなければならない」。
次世代ロボットの安全基準はロボット普及のポイントではありますが、あまりにも過度な安全信仰は画期的なロボットの製造、普及に大きな障害になると危惧している。
今年3月、再生医療の最前線を紹介するシンポジウムがあった。
トカゲの尻尾は切れてもまた生えてくるし、鮫の歯も何度も生えてくる。
ところが人間の場合、失った組織や臓器を自ら再生する能力はほとんどない。
昨年、韓国で捏造が発覚して大きな問題ともなった「ヒトES細胞」。
「ヒトES細胞」とは、受精後まもないヒト胚を培養して人工的に作る「 胚(はい)性幹細胞」のことで、人体のさまざまな組織になる「万能 (多機能)細胞」であり、しかも、無限に増殖するという特性がある。
そのため、患者本人の体細胞の核を抜き取って、卵子に移植し、クローンES細胞を作ることで、移植しても拒絶反応がおきない組織や臓器を作れる次世代医療として期待されていた。
しかし、命の萌芽である胚を操作することの是非や核移植によるクローン人間の誕生の可能性など、安全面、倫理面で多くの課題を抱えていた。
昨日発表された京都大グループによる世界初の「ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)」作製の成功。
受精卵を壊して作る、これまでの「胚(はい)性幹細胞(ES細胞)」ではなく、皮膚細胞から、あらゆる臓器・組織の細胞に変化する「万能細胞」を作ることに成功したという画期的なもの。
実用化にはまだ時間がかかるようだが、画期的な技術にはリスクがつきもの。
サリドマイド薬禍や水俣病など多くの医療過誤を経験してきた日本人が、実際の効果も未知数な医療に対して、保守的になるのも理解できるが、リスクを受け入れる社会的合意(覚悟)がなければ、時間も予算もつぎ込んだ画期的な科学技術が絵に描いた餅に終わる危険がある。
いい加減な医療行為をする医者がいることは事実としても、医療責任の過度な追及が結果として、先端医療を受けたくても日本で受けることができず、多額の費用をかけて海外に渡らなければならないということにもなりかねない。
脊髄損傷やパーキンソン病などの難病に苦しむ人が一人でも救われるよう、患者の合意があれば、薬事法にとらわれることなく、個別に医療が受けられる制度の確立が必要だ。
医療、ロボットをはじめ先端科学におけるリスクと責任の問題は、「科学技術創造立国」を標榜する日本の一番のアキレス腱になるかもしれない。
今春、NHKBSでも中継された「第4回東京ガールズコレクション」。
通称“TGC”と呼ばれるこのイベントには、押切もえ、土屋アンナ、蛯原友里、山田優などの人気カリスマモデルが一堂に会するとあって、1万人を越えるオシャレ好きな女性たちが集まった。
会場には協賛企業による無料プリクラ、総額10億円相当の鏡、ハンドリフレクソロジーの無料体験などのブースも多数出展。
「イノベーション25 中間取りまとめ」の中で、「イノベーションで拓く2025年の日本」を実現するために必要な技術60例が載っている。
そのうち「生活支援型ロボット」をはじめ、ロボティックライフスタイル関連技術と思われるのは、
在宅医療、介護、防犯、画像・音声認識、歩行・移動支援など、16。
その大半が子供、老人、障害者を対象にした技術となっている。
人を支援し、人に役立つロボットが求められている以上、当然な結果だが、
それでもロボットによるイノベーションの普及を本気で目指すなら、TGCに集まるような若い女性たちや女性誌(「マリソル」、「グレース」)などのターゲット層である購買力ある新40代女性を納得させるだけのロボットが登場することが、やはり必要でだ。
時代のムードは、女性の手の内にあるのだから。