昨年のGW前にロボット関連の報告書が省庁などからいくつか発表された。
その紹介と簡単なコメントを。
「イノベーション創出の鍵とエコイノベーションの推進(中間報告)」(産業構造審議会)
我が国では、「供給能力の高まりの中で物質的な飽和感が蔓延しており、受け手が機能を求めるのではなく多様な感性の充足を求める、人間重視のイノベーションの重要性が高まっている。
イノベーションは、技術シーズだけで実現するものではなく、持続可能な社会において受け手・ユーザーに有益な価値として認められなければ実現しない。(中略)
したがって、21世紀におけるイノベーションは、供給サイドではなく、環境を重視し、受け手である人間を重視する」と、エコイノベーションの重要性を説いている。
つまり、日本の強みである「環境・ものづくり・感性」を活かし、新たな融合を起こすエコイノベーションの実現こそ、
「他国にまねることのできない国際競争力の源泉であり、新しい経済成長のエンジンとなる鍵」だと述べている。
この中間報告では69ページに渡ってエコイノベーション推進の道筋が綴られているが(ロボットに関しても当然記述あり)、その中で理科離れの対応策のひとつとしておもしろい提言をしている。
その名も「日本の強みプラザ」の創設。
これは、環境・エネルギー・感性関連で日本の強みと考えられる成功事例(ハイブリッドカー、研磨技術、ポップ、アニメ、温泉等)を一堂に展示するというもの。
環境や理科教育として活用するほか、「殿堂」化を図り、将来的には、国内外のイノベーティブな人材を惹きつける、シリコンバレーのような「知の融合拠点」を目指すとしている。
楽しいような、ちょっと恥ずかしいような。
(つづく)
昨年行われた全国学力テスト。その中学校国語Bでロボットについて出題されていた。
中学生の「前田」さんがロボットについて調べたことを発表する原稿(A)とレスキューやコミュニケーションロボットの性能・特徴を紹介(写真付)する表(B)が掲載された。
設問三 [A]の文章中に ロボットと共存する未来社会 とありますが、あなたは、どのような未来社会を想像しますか。次の条件1と条件2にしたがって書きなさい。
条件1 人間とロボットの未来の関係についてのあなたの考えを書くこと。
条件2 [B]の表に示されているロボットの「性能・特徴」のいずれかに触れること。
まるで学力テストという場を借りた全国規模のマーケティング調査のようだ。
若いユーザーがこれからのヒトと機械との関係をどのように思っているのか、全員の回答を是非読んでみたいと思った。
この設問だけでいいので、出題に協力した(社)日本ロボット工業会は、回答例を公開できるよう文部科学省と調整だろう。
4月に、NHKBSで放送された「運命の一手 渡辺竜王VS人工知能・ボナンザ」。
昨年の「世界コンピュータ将棋選手権」で優勝した将棋プログラム「ボナンザ」とプロ棋士・渡辺明竜王との公開対局を軸に、一手一手に込められた両者の心理と葛藤を追った112手3時間10分に及ぶ攻防は、大変見ごたえがあった。
チェスの世界チャンピオンが、IBMの「ディープ・ブルー」に敗れたのは1997年。
取った駒を使え、敵陣で「成る」ことができる将棋は、チェスに比べてより複雑なため、現在の将棋プログラムの実力はアマ6段ぐらいの棋力だろうと思われていた。
しかし、終盤の読みの速さ、正確さではすでに人間は太刀打ちできなくなっているともいう。
2005年秋、日本将棋連盟は公の場で許可なく将棋プログラムと対局することを禁止した。
そのためプロのトップ棋士と将棋プログラムによる公開対局 = 真剣勝負は今回が初めてであり、大変注目を集めた一戦だった。
ほとんどの将棋プログラムは、プロの対局を参考に無駄な手筋を捨て、候補を絞り込む方法だが、ボナンザは全ての可能性をしらみ潰しに調べる「全幅検索」を採用し、江戸時代までさかのぼる過去80万対局すべてのデータを入力。
また局面が有利なのか不利なのかを数値化して判断する「評価関数」を取り入れ、計算科学で使われる「最適化」という手法も用いた。
それにより、ボナンザは1秒間に400万局面を計算し、最適な「手」を打つことができるようになった。
実際、番組ではボナンザがはじき出した局面の数値から、終盤ではずっと形勢「有利」と判断していたことを紹介していた。
「機械と指しているのではなく,まるで人間と指しているよう」(日本将棋連盟 米長邦雄会長)
面白いのは、ボナンザが高度な探索アルゴリズムによって強いというだけでなく、局面を優勢にするために駒損となる手を指すなど、人間味のある「棋風」を感じさせる将棋を指したということ。
「棋風」はいうなれば「感性」に通じるわけで、将棋プログラムにそのような「擬似感性」が感じられたということは、今後、人間の「心」を持つロボットを開発する上で参考になるかもしれない。
今年のボストンマラソンに、国際宇宙ステーション滞在中の女性宇宙飛行士が宇宙から特別に参加。4時間24分で完走した。
無重力で体が浮かないようゴムひもをトレッドミルに固定して、42.195キロのフルマラソンを完走したというのもすごいが、アメリカという国はやっぱりエンターテイメントのもつ「力」をよくわかっている。
世界初(宇宙初?)の「宇宙からフルマラソン」というだけで、世界のメディアは飛びつき、日頃宇宙開発に興味のない人も注目する。しかも、参加するのは世界各国のトップアスリート、市民ランナーが出場する伝統のボストンマラソン。舞台は完璧だ。
マラソンはゴールに至るまでの間、5キロごとのラップタイム、ゴールに向けてがんばるランナーの姿、完走時間など、さまざまな情報を発信することができ、なにより、42.195キロを走り抜けた「感動」を伝えることができる。
「感動」は人々の心に深く残り、共有され、やがて共鳴へと変わる。
しばし人生にたとえられる「人間くさい」マラソンというスポーツを通して、NASAは非常に効果的なパブリシティを行った。
ヒューストンの管制官も「最後の心臓破りの丘だ。その調子で頑張れ」などと激励して、イベントの盛り上げに一役かった。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)も予算が減らされ大変だと泣き言を言う前に、こうした費用対効果が高く、なにより生き生きとしたイベントを仕掛けてほしいと思う。
今年、違法DVD探知犬「ラッキー」と「フロー」が、約100万枚の海賊版光ディスクをマレーシアで押収した。
二匹はプラスチックの匂いを察知すると、お座りをするように訓練されていた。
現在、世界には400種の犬がいる。
ペットとしてはもちろん、盲導犬、聴導犬、介助犬からサルやクマを追い払う作業犬、癲癇の起こる前にてんかんを教える癲癇発作予防犬、トリュフの場所を探し当てるトリュフ探知犬など、人間の100万倍もの臭いをかぎ分ける能力などを活かして「人に役立つ」10数種類のワーキング犬が生まれている。
家庭用ロボットがお手本にすべきは、このワーキング犬だろう。
ちなみに違法DVD探知犬「ラッキー」と「フロー」は、そのあまりの活躍ぶりに海賊版シンジケートから命を狙われているという報道があった。
家庭用ロボットの前に、2匹を守るボディガード・ロボが必要だ。