昨年、海の生物を巡るニュースがいくつか報じられた。
1)台湾周辺の深海で、外敵に襲われると青く光る物質を噴き出し逃げるエビなど新種を含む80種類以上の魚類や甲殻類の発見。
2)南極大陸の深海で甲殻類をはじめとする500種類以上の新種の生物の発見。
3)相模湾の海底で見つかったシマイシロウリガイが細菌を「家畜」のように管理しながら栄養を得ているというゲノム解読からの事実。
東大生産技術研の無人潜水機「r2D4」のような水中ロボットが、今後、未知の新種を発見する可能性がある。
実際、「地球は微生物の星」と言い換えたほうがいいほど、地上の生物圏をはるかに凌駕する微生物圏が海底下に存在することがわかっている。
「r2D4」は初潜航以来、伊豆小笠原海域の明神礁カルデラやインド洋ロドリゲス島沖中央海嶺などへの心躍る潜航に成功しているが、
世の中にはスケールの大きい深海探査を考えている人たちはいるもので、NASAとテキサス大学、カーネギーメロン大学は、木星の第2衛星「エウロパ」の海に潜って生命の存在を探す、自律型深海探査ロボットの開発を共同で行っている。
何故それがロボットなのか、その目的が明確であればあるほど、ロボットはロボットとしての耀きを増す。
大事件や災害の様子を実況するとき、テレビがその耀きを増すように。
昨年、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の施設一般公開を見学した。
海洋調査船「かいよう」の体験乗船やカップヌードルの容器を使った加圧実験や、
「しんかい6500」、「しんかい2000」の有人潜水調査船、「ハイパードルフィン」や「PICASSO」などの水中ロボットも一同に見ることができ、ロボットに興味のある人にとっても貴重な体験になったことだろう。
特に水中ロボットは、何故ロボットを作り、ロボットを何に使うのかという「目的」がはっきりしているので、
ロボットに興味はあるけど、将来何をやりたいのかがわからないという子供たちにとっては、明確なモチベーションやそのヒントを与えるきっかけになる。
「本物」を見、体験することは子供にとっても、また大人にとってもとても重要なこと。
全国の多くの施設が科学技術振興のための一般公開日を設けているが、
イベントを、やったらそれで終わり、とするのではなく、参加者にアンケートをとり、またスタッフからヒヤリングをして、次回に活かす努力が必要だ。
「なんでこんなことをやらなきゃならないのか」と、いまだ気乗りしない一部職員の方々も、一般の人の声や反応を直接伺え、また子供たちの将来につながる貴重な体験の場と自覚して、是非積極的に取り組んでほしいと思う。
昨年5月、山口県美祢(みね)市に、建設と管理運営の一部を民間に委託した国内初の刑務所「美祢社会復帰促進センター」がオープンした。
この施設ではいろいろ新しい試みがなされるようだが、セコムが実施主体ということもあり、受刑者の上着にICタグを取り付け、受刑者の居場所や移動の軌跡を警備室のモニター画面で監視すると共に、受刑者が居室などに出入りするたびに指静脈画像による本人確認を行うなど、ハイテク警備をウリにしている。
この施設に収容される受刑者は初犯の者に限られ、なおかつ就業経験や出所後の身元引き受け等も問題無い「スーパーA」と言われる人たち。
ロボティック・プリズンとしての実証実験も兼ねているのかもしれない。
世界初という「刑務作業としてのソフトウェア開発」も注目される。
これまで刑務作業といえば木工や印刷などの単純手作業が中心なため、最近では人件費のより安いアジア諸国に発注されることが多く、刑務所での受注が減ってきており、また受刑者が出所後にその技術を活かせることも少ないという現実がある。
そこで受刑者の中からソフトウェア技術者を養成して、ソフトウェア開発のアウトソーシング業務を実施しようとなったようだ。
平成17年の全国の受刑者数は約6万6千人。そして毎年新たに約3万3千人の受刑者が出て、再犯受刑者はその半数を占める。(※)
再犯防止やソフトウェア労働力確保の観点からも「刑務作業としてのソフトウェア開発」はおもしろい取り組みだとは思うが、そのアウトソーシング業務を行うプリズニーズという会社の実態がよくわからないので、推移を見守る必要があるだろう。
※ 平成18年版犯罪白書 資料編
(つづき)
「次世代ロボット安全性確保ガイドライン(案)」(経済産業省)
家庭用ロボットが普及するためには、「安全性」「共通基盤」「費用対効果」など、まだまだ乗り越えなければならない課題が多いが、昨年、その「安全性」についてのガイドライン案が発表された。
次世代ロボットの関係主体を製造者、管理者、販売者、使用者、使用者以外に分類し、それぞれの安全性の「確保」についての指針を行っている。
ロボット独自の安全規格というよりも、既存の法律(製造物責任法、労働安全衛生法、産業用ロボットの安全基準など)の次世代ロボットへの適用、解釈といった趣だが、
ポイントは、
一つの保護方策が十分機能しなかった場合でも事故防止が図られるようにする「多重安全の考え方」を取り入れている点。
将来、どんなロボットが我々の生活に入り込み、どのような働きをし、また我々がロボットにどう接していくのか現段階でわからない以上、細かな安全対策を論じても意味はないわけで、安全性確保の原則をまずは提示したことはとても正しい判断だと思う。
最終的には「素人」がロボットを扱うわけだから、自動車が誕生した後に様々な問題が生じたように、例え今、安全基準を完璧に満たすロボットを作ったとしても、様々な事故事例を積み重ねていく中でしか、より安全な策を講じることはできないだろう。
しかし、家庭用ロボットがまだ普及していない段階で安全性確保のガイドライン案を作り、国民の意見も取り入れながら、世界にさきがけて実施していくことは、日本が世界におけるロボットの安全性のイニシアチブをとっていくために重要であり、意義がある。
ちなみに、韓国では人型ロボットの虐待問題やロボットと人間の適正な関係を定めた「ロボット倫理規定」(ロボットの役割や能力に関する倫理ガイドライン)を産業資源省が立案しているが、これにはロボットのことを心配するより、もっと先にやることがあるだろうと、ツッコミの声が聞こえそうだね。
また、英国科学イノベーション庁が06年に発行した報告書に「人権をロボットにまで拡大することが要求されるかもしれない」と記したことに対し、ロボット工学の専門家らが「機械が意思を持つという考えはおとぎ話のようだ」と反発して、人々がどのような機械の活用を望んでいるのかを知るための公開討論を行ったようだ。
どんな結論になったのか、知りたい。
(つづく)
『技術戦略マップ2007』(経済産業省)
2005年から公開されている「技術戦略マップ」。
2007年版では情報通信、ライフサイエンス、ものづくりなど25分野についての導入シナリオ、技術マップ、技術ロードマップが詳細に記載され、既存技術の検証とローリング(見直し)が行われ、
ものづくり分野の「ロボット」においては、知能化について検討が加えられている。
感心したのは「おわりに」と題した章。
そこで担当者は次のように述べている。
「当省と致しましては、(簡略)技術戦略マップに基づいた適切なプロジェクトの立案と実施中のプロジェクトについて不断の検証を行っており、
これによって、経済産業省の毎年約2300億円の研究開発プロジェクトに対する説明責任を果たしていきたいと考えております。(中略)
一方で、このような技術戦略マップという研究開発マネジメント手法は、当省として初めての試みであり、必ずしもパーフェクトなものが得られたとは考えてはいません。
今後、策定のプロセスも含め、見直すべき点を明らかにしつつ改善を行っていきたいと考えています。
継続は力なりと諺にもありますが、技術戦略マップが一過性の取り組みにとどまることがないよう、心して努めて参りたいと思います。
今後ともローリング活動を続けて参る予定ですので、引き続き皆様方のご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます」
これを謙虚な言葉ととるか、予算獲得のための方便ととるかは人によって見方は違うと思うが、まずは近未来に実現するだろう世界を信じてみたいと思う。
(つづく)