学生の頃に訪れ、今でも強く印象に残る場所として恐山がある。
ランプ明かりひとつの掘っ立て小屋の温泉場。月明かりに青白く浮かび上がる宇曽利湖。カタカタと音をたてて回るおびただしい数の風車・・・
他のどことも違う独特な雰囲気があった。
そして、訪れた日がたまたま「秋詣り」の日だったため、死者の霊魂を呼び寄せるというイタコの「口寄せ」が行われていた。
しかし、当時の私は霊魂など信じていたわけでもなく、また元気で若かったこともあり、何を言っているのかさっぱりわからない津軽弁に、
なんで死んだ人が皆津軽弁を話すの?、外国人でもやっぱり津軽弁なわけ?などと失礼な屁理屈を考えたりしたものだった。
昨年、イタコの「口寄せ」に癒し効果のあることが青山県立保健大学の藤井教授によって発表された。
青森県内の病院に通う慢性疾患患者670人への聞き取り調査の結果、232人が「口寄せ」を利用したことがあり、そのうち80%近くの人が「とても心が癒された」「話を聞いてもらい、落ち着いた」となんらかのプラス効果を得ていたという。
「口寄せ」で「そこまで我慢すれば良くなる」と問題解決の時期を示すことで、悩みを抱えた患者に安心感や前向きに生きる力を与える効果があるようだ。
元気で健康な時にはイタコさんの助けなどいらないだろう。
しかし、心や身体が弱っている時にイタコさんが身近にいたら、どんなに勇気づけられることか。
心のよりどころとしての「イタコの存在」。
コミュニケーション・ロボットを考える上で、なにかヒントを与えてくれるかもしれない。