4月に、NHKBSで放送された「運命の一手 渡辺竜王VS人工知能・ボナンザ」。
昨年の「世界コンピュータ将棋選手権」で優勝した将棋プログラム「ボナンザ」とプロ棋士・渡辺明竜王との公開対局を軸に、一手一手に込められた両者の心理と葛藤を追った112手3時間10分に及ぶ攻防は、大変見ごたえがあった。
チェスの世界チャンピオンが、IBMの「ディープ・ブルー」に敗れたのは1997年。
取った駒を使え、敵陣で「成る」ことができる将棋は、チェスに比べてより複雑なため、現在の将棋プログラムの実力はアマ6段ぐらいの棋力だろうと思われていた。
しかし、終盤の読みの速さ、正確さではすでに人間は太刀打ちできなくなっているともいう。
2005年秋、日本将棋連盟は公の場で許可なく将棋プログラムと対局することを禁止した。
そのためプロのトップ棋士と将棋プログラムによる公開対局 = 真剣勝負は今回が初めてであり、大変注目を集めた一戦だった。
ほとんどの将棋プログラムは、プロの対局を参考に無駄な手筋を捨て、候補を絞り込む方法だが、ボナンザは全ての可能性をしらみ潰しに調べる「全幅検索」を採用し、江戸時代までさかのぼる過去80万対局すべてのデータを入力。
また局面が有利なのか不利なのかを数値化して判断する「評価関数」を取り入れ、計算科学で使われる「最適化」という手法も用いた。
それにより、ボナンザは1秒間に400万局面を計算し、最適な「手」を打つことができるようになった。
実際、番組ではボナンザがはじき出した局面の数値から、終盤ではずっと形勢「有利」と判断していたことを紹介していた。
「機械と指しているのではなく,まるで人間と指しているよう」(日本将棋連盟 米長邦雄会長)
面白いのは、ボナンザが高度な探索アルゴリズムによって強いというだけでなく、局面を優勢にするために駒損となる手を指すなど、人間味のある「棋風」を感じさせる将棋を指したということ。
「棋風」はいうなれば「感性」に通じるわけで、将棋プログラムにそのような「擬似感性」が感じられたということは、今後、人間の「心」を持つロボットを開発する上で参考になるかもしれない。